介護ブログ

母編14:《癌研究会病院、最後の日。》

 

ホスピス探しと、緊急引き継ぎした家業の諸々対応に明け暮れ、

怒涛の2週間が過ぎた、癌研究会病院の退院日。

主治医と看護師長さん、看護師さん数名が、

エレベーターまでお見送りしに来た。

癌研が大塚にあった頃から、10年程お世話になってたし。

これで「最後」だからなんだろうと、容易に想像は付いた。
退院手続き中、何人もの看護師さんに声を掛けられた。

励まされたり、同情されたり。正直、あまり嬉しくなかった。

その都度応えるのも辛く、そっとしておいてほしかった。

 

一人の若い看護師さんから今後の事を聞かれ、

ホスピスへの入院申請をしている最中である事を告げれば。

「ホスピスへ入れちゃうんだぁ。」と、笑って返された。

母の病状や進行具合を、私よりも知っているはずの人に。

笑いながら、言われたくはない言葉だった。

 

 

母が歩けなくなってから、何度かお世話になった介護タクシー。

右の鼠蹊部に皮膚転移し、広がり続ける癌の影響で、

右脚を曲げる事が出来なくなった母に、

脚リフト付き車椅子を用意してくれ。

走行中のちょっとした振動さえも激痛に繋がる容態を汲み、

静かな運転を心掛けてくれた、初老の男性ドライバーさん。

 

いよいよ始まる在宅介護を思い、気が重かった退院日。

自宅までの介助運転をお願いした際、天気が良いからと、

眺めの良いコースを追加料金無しでゆっくりと走ってくれた。

初夏も間近な快晴。

有明癌研究会病院を出発し車窓から眺めた、

ベイブリッジや陽光に輝く海、鮮やかに咲き誇るサツキや目映い緑の木々は、

今でも忘れられない風景の一つとなった。

 

自宅へ到着して母を降ろし、支払いをして。

心遣いへのお礼を述べた際、ドライバーさんがアドバイスをくれた。

 

「ご自身を休ませる時間を、少しでも作るようにして下さい。

苦しい気持ちなども、ケアマネさんや医師へこぼしていいんですよ。

身体や心の疲れを、溜め過ぎない様にしておかないと、

気を張り詰めっ放しじゃ後が続きませんからね。」

 

介護タクシードライバーという仕事を通して、きっと

 

《苦しいと言えず、心身の疲れを溜め過ぎて、

後が続かなくなった介護者(介護する人)。》

 

を少なからず、目の当たりにして来たのだろう。

ドライバーさんの言葉には、暖かみと重みが感じられ。

癌研主治医や看護師さん達のおざなりな励ましより、

ずっと優しく心に響いて、不覚にも泣きそうになった。

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